猫とうさぎとアリスと女王
ⅩⅢ そしてチェシャ猫は煙草をふかす
 翌日の新聞には小さな記事で懸高氏の逮捕の知らせが掲載されていました。
きっと茶道界のお偉い方が記事をできるだけ小さく掲載するように圧力をかけたのでしょう。

イオに毒を盛ったのは濡れ衣ですが、脱税と裏金の問題があったため、懸高氏は警察の方々にお世話になるようです。

例え保釈金を払って刑務所から出てこようとも、茶の道へ復帰することは難しいと言えます。


兎に角、イオに幸せが戻ってきてよかった。
私は胸を撫で下ろしながら新聞を折りたたみました。



三日後、イオは無事退院。

私たちのしたことについては全く詮索されませんでした。
これはサボの“アフターケア”のお陰なのかしら?

どちらにせよ穏やかな日々が戻ってきたことには変わりはありません。



私たち四人はまたいつものベランダに来てお喋りをしていました。

この日、一番最後に来たのはシーナ。
手には何か広告のような物を持っています。


「今日はシーナが最後だな。」


サボはまたニヤニヤと笑います。
本当、チェシャ猫のよう。


「ごめん。ちょっと忘れ物があったから、教室に一回戻ったんだ。
そうだ、イオ。お願いがあるんだけど。」


イオはきょとんとしてシーナを見つめました。


「今度、絵画のコンクールがあるんだ。
それの課題が人物画で、イオにモデルを頼みたいんだ。」

「私がモデル?そういうことならマコに頼んだら?」

「シーナ、ヌードとか描くのかよ。」

「そんな訳無いだろ、サボ。
はっきり言ってイオの顔って描きやすくて、モデルに向いてるんだよ。
僕、人物画って得意じゃないからさ。

マコの顔って童顔で、それですごくバランスが難しいんだよ。」


なんだかそれを聞いてほんの少し悲しくなりました。

私も何かシーナのお役に立ちたいのに、願うばかりで実際に助けになったことなどありません。
イオが羨ましいです。


「それにマコをモデルに描いたらロリコンと間違えられるぜ。」


サボはケタケタと笑いました。


「サボ、五月蝿いですわよ。」


サボはまだニタニタと私を見て笑っていました。

まるで私がモデルに向いていないと言われたことを喜んでいるかのように。

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