猫とうさぎとアリスと女王
 「まあ、あいつもあいつなりに悩んでるだろうから。」


火のついていない煙草を口で弄びながら、サボはうわ言の様にそう言いました。


「シーナはちゃんと自覚してるよ。
前の男のこと忘れなきゃいけないって。吹っ切れなきゃってさ。

その上あいつ進路のこととかも、いろいろ親と問題あるからな・・・。」

「進路?」


私は聞きなれない言葉にオウム返しをしてしまいました。

進路だなんて生まれてこの方考えたこともありませんでした。

大体この学校はエスカレーター式ですし、お金持ちの集まり。
なので大抵の方は親の後を継ぐか、そのまま大学へと進学するかのどちらかです。


「あいつの親、すっげえ有名なデザイナーなんだよ。」

「有名なブランドですか?」

「えっと・・・何だったかな。シーナ・・・・ナンタラってやつ。」

「もしかして、“Shina La Soleil”のことですか?」

「あーそれそれ!ソレイユ!」


嘘でしょう!?

Shina La Soleilと言えば高級ブランドの名前ではないですか!
今では世界的にも有名で、第一線で活躍しているブランドの一つです。

私には着れない様な大人っぽく、前衛的且つクラシックな装いのお洋服ばかりですが、その名前と人気は計り知れません。

まさかそれがシーナのご両親の立ち上げたブランドだなんて・・・。


「シーナは一人っ子だから、親は・・・ってか母親はシーナに跡を継がせたいんだよ。
けどあいつは絵描きになりたいって思ってる。

なのに馬鹿正直に親に“絵描きになりたい”って言いやがった。
黙ってりゃいいのに。」


私はその時、おそらくシーナとサボは正反対の性格であると感じました。

自分の進みたい道のことなどいずれは言うことになるのです。
けれどシーナは躊躇いもせずにそれを言い、サボは後ろめたいからそれを言えないのだと。



けれど突然私の中の不安が押し寄せてきました。



私の夢は、一体何なのでしょう?
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