こころの展覧会
調和された美しさと、凛とした強さをあわせもっていた。

弦音。
そして、真っ直ぐに風を切り裂いて飛ぶ矢。

パアアァァンッ


矢は的に突き刺さった。
胸の奥にまで響く音だった。

藍は瞬きも、時間も忘れて見入ってしまっていた。
微動だにせず、正座のまま。

道場にある静寂と緊張感。
その空気の感触に、どこで息を吸ったり、吐いていいのかわからなかった。


お昼を過ぎた頃。
松詠に言われて、時間を見た藍は驚いた。
あっという間に時間は過ぎていた。
そして、何故自分がここに連れて来られたのか、わかった。

昨日、椿姫に母親との思い出話をした時、母と弓道の大会を見に行ったときのことも、その中にあったのだ。

方向音痴の母と、迷いながら会場に行ったこと。一緒に見入ったこと。そして、その日のお弁当は、必ず稲荷寿司だったこと。

椿姫は自分のことを気遣って、松詠に自分を連れていくように言ってくれたのだと。

藍は急いで家に帰った。
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