こころの展覧会

「椿姫さん、ありがとうございました」

言って、藍は綺麗に笑った。
屈託のないその笑顔に、椿姫の口許に微笑が滲む。



   ☆



ある日の昼下がり。
藍は縁側で、絵を書いた。
思い浮かべるのは、母の笑顔。
思い出に浮かぶ母の笑顔は、とても綺麗だった。
それを、忠実にスケッチブックに描いていった。

「―――それが、お前の母か?」

真剣に描いている藍。
その絵を、椿姫がのぞき込んだ。

「そうです」

「よく見せてみろ」

藍は椿姫にスケッチブックを渡した。
椿姫は、しばらくの間、無言でその絵を見ていた。

「……桔梗の花が似合う女性だな。愛らしい笑顔なのに、強さも気品もある」

「母は“桔梗”という名なんですよ」

椿姫は藍にスケッチブックを返すと、ポンッと軽く藍の頭を叩いた。

「上手に描けたじゃないか」

「はいっ!!!」

藍はまた嬉しくなった。
それは、今までで最高の誉め言葉だった。

そうして嬉しいと思う度、藍は思った。
この嬉しさが伝わったらいい。
この嬉しさの倍の気持ちを返したい。
 

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