こころの展覧会
「この桜の木は“誓いの木”なんだ。先生も友人とある約束をしたそうだ」

「先生って、お盆の時にお墓参りをした先生ですか?」

「そうだ。先生は若い頃に、この木の前で一緒に旅をする約束をした、友人がいたんだ」

椿姫は淡々と語り始めた。

「先生よりも5歳程年上だったその人の趣味は、貧乏旅行をしながら絵を描くことで、帰ってくる度に先生にいろんな話お土産にしていた。それに興味を持った先生は、自分も連れてってほしいと言った。そしてその人は、次の旅行から帰ってきたら、一緒に行こうと約束をしたんだ」

椿姫はそこまで語ると、お面を外した。
桜の木を見ながら、目を伏せる。目元に長いまつげの影がおり、ためらいがちに開かれた唇。

< 109 / 203 >

この作品をシェア

pagetop