こころの展覧会
「先生は待った。何年も。約束してから5年が経とうとした時、その人が旅先で亡くなったと連絡を受けた。先生は線香をあげに行った時にその人が旅先で使っていた筆を貰い受けた。そして、その筆とともに旅行をした。以来、旅行をする時、先生はその筆を必ず持っていった」

「そうだったんですか……椿姫さん自身は何か約束をしたことがあるんですか?」

「したさ……昔の話だ。お前も何か誓いがあるのなら、誓いをたてるといい」

言って、椿姫は唇を歪めた。大きな瞳が細くなる。
その美しい顔に微笑みを浮かべていた。
内の妖しさがその笑みにあらわれ、どこか冷酷な印象を与える。

「僕が誓うべき事は、一つしかありませんよ」

「言ってみろ」

「椿姫さんに恩を返すことです」

それを聞いた椿姫は、藍に視線を移した。藍を見据える椿姫の瞳は、氷の如く冷ややかだった。

「……藍」

すっと、椿姫は立ち上がった。

「はい」

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