こころの展覧会

「猫に限らず動物はな」

「何か理由でもあるんですか?」

「動物は嘘をつかない」

「……そうですね」

猫は気持ちよさそうに腹を向ける。

「人間は嘘をつく。それは言葉があるかせいなのかもしれないな」

「でも、言葉がなければ気持ちを伝えあえないじゃないですか」

「それを思うと人間とはつくづく面倒な生き物だな」

「そうですか?言葉って便利な気もしますけど…」

「言葉に頼りすぎてるんじゃないか?」

「…そうかもしれませんけど…」

藍は言葉に詰まった。

「言葉か……言葉があるから人を傷つける。言葉とは厄介なものだ」

椿姫はゆっくりと目を伏せた。その赤い唇には薄氷のように透明で冷ややかな笑みが刷かれていた。
< 145 / 203 >

この作品をシェア

pagetop