こころの展覧会

藍の言葉を聞いた椿姫の頬を、一筋の滴がつたっていった。

「どうしたんですかっ?」

藍はおろおろし始めた。
椿姫の目からは、静かに涙が流れ出したのだ。

「ありがとう」

椿姫は涙を流しながらも、まるで何かから解放されたように穏やかに、やわらかく微笑んだ。



   ☆



『椿姫は赤い椿のイメージだな。潔さがあって、強い感情を内に秘めてる。でも不安定なところもあって、誰も寄せ付けない空気。赤ほど他人を刺激する色はないだろ』

それは昔、彼が椿姫に言った言葉。



   ☆



朝。
まだ空が白んでる頃に椿姫は家を出た。冴えた空気は、気持ちを引き締めてくれた。上っていく太陽の柔らかな光が、綺麗で、何か新しいことが始まるような、そんな気にさせる。

椿姫は立ち止まり、深く深呼吸をした。
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