こころの展覧会
電車を乗り継ぎ、迷うことなくそこにたどり着いた。立派な門構えの家。表札には【香坂】と書かれている。
椿姫は袂から丁寧に折り畳まれた紙を取り出し、それを広げた。白い椿の花の絵。藍が椿姫にあげたお守りだった。
―――もう赤い椿じゃない。この白い椿の花が似合うと言ってくれたのだから。白い椿でありたい。
お守りは、自分の生き方を貫くための自分の自信を支えてくれるもの。
椿姫はその紙を折りたたみ、再び袂へと入れた。
「三島椿姫さんですね?お待ちしておりました」
門のベルを鳴らすより先に、その人は現れた。細身でやけに背の高い40代半ば頃と思われる男は、丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、渡部さん」
椿姫は、その男を見るなり、顔が強ばった。
「お久しぶりですね。葵様のもとへご案内致します。どうぞ裏口からお入りください」
男は渡部荘介(ワタベ ソウスケ)。この香坂家の専属運転手である。