こころの展覧会
部屋の真ん中には布団が一つ。布団の中には、上半身だけを起こし、庭を見つめている人がいた。
「一時間ほどは誰も来ないと思います。安心してください」
椿姫は、庭を見つめている人に近づいた。
見ると、彼はどこを見ているのかわからない目で庭を見ていた。見ていると表現するのは、正しくないのかもしれない。その瞳は、何も映そうとはしない、そんな瞳だ。近くに人が来たのに、それに気づく様子もない。
「ずっとこの調子なんですか?」
椿姫は部屋の入り口に立っている渡部にたずねた。
「はい。あなたがあの時訪れてから少しずつです。もう誰の声にも反応しません。声を聞いた者もおりません。ただ、何かを見ているかのようにどこかを見続けるだけなのです」
椿姫はそっと、彼の、葵の隣に座った。
そして、その人形のような横顔を見つめた。
「わたしは外の見張りをしますので、失礼致します」
渡部は軽く一礼して、部屋を出ていった。