こころの展覧会
家に帰ってきた椿姫は、庭にある枝垂れ桜に触れた。その木を抱きしめるように。
もう自分は解放されたのだと、あの約束は無効になったのだと、そう告げるように。
「椿姫さん、おかえりなさい」
藍はいつもの笑顔で言った。
椿姫はその笑顔を見て、安堵するのだった。
「ただいま」
「コーヒー飲みませんか?」
「ああ」
藍はコーヒーを淹れ、再び縁側に戻ってきた。
「藍、ひとつ聞きたいことがある。葵の家に連絡したのはお前だな?どういうつながりだ?」
「渡部さんから聞いたんですね……僕も椿姫さんから過去の話を聞くまでは、知りませんでした。葵さんは僕の兄ですよ。と言っても、腹違いですがね」
藍は表情から笑みを消し去った。
「一年ほど前に母が事故にあったと、話したのを覚えてますか?」
「覚えている」