こころの展覧会

「父だと名乗りをあげたのが、葵さんの父親だったんですよ。と言っても、兄と話したことはありませんが、人形のような兄を、何度か見かけたことはあったんです」

「そうだったのか……」

椿姫は目を伏せた。

「あの家は……冷たいんです。いきなりできた父は、仕事ばかりの人ですし、兄は人形のようで、広い、広いあの家で、僕は一人でした。……兄とは会えたんですか?」

「ああ、お前のおかげでな。償いはいらないと言われたよ」

椿姫は苦笑を滲ませながら言った。

「よかったですね!!椿姫さんはこれから、遠慮なく幸せを手にできるんですよ。今まで受け取れたかった幸せも、全部っ」

ぱっと輝く藍の目に、やわらかな笑顔に、椿姫はひどく安心した。

「……そうだな」

「…大丈夫ですよ。椿姫さんは一人じゃありませんから。みんな、みんな、あなたの傍にいますから」

椿姫の頬を涙が伝う。

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