こころの展覧会
「違う。この紫陽花ではない」

椿姫の視線は、白い紫陽花から藍へと移った。

「降りしきる冷たい雨に濡れた、深い青の紫陽花だ」

抑揚の少ない涼しい声音。

椿姫はパチリと扇を閉じると、再び視線を一房の紫陽花へと移した。椿姫はその後、一言も発しなかった。藍も話しかけることはできず、水に浮かんでいる紫陽花を見た。



   ☆



夜になっても、雨は降り続けていた。
まるで、止むことを拒否しているかのように。



藍は、仕事が終わって帰ってきた木蓮に、家の中を案内してもらった。

最後に案内されたのは、椿姫の仕事部屋だった。絵の具の匂いが充満したその部屋には、筆や絵の具が散乱していた。

部屋に入ることはできなかったが、一枚だけ絵を見せてもらうことができた。
 

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