こころの展覧会
一通りの説明を受け、見学をした藍はカップに注がれていコーヒーをも熱い視線を注いだままだ。コーヒーの粉の変化や、お湯を注ぐ皐月の手から目を離すことはできなかったのだ。
「じゃぁ、これを姫のところに運んでね。7時ぴったりに起こすことになってるの。あたしは仕事に行くから、あとはマニュアルどうりによろしくね」
皐月は、綺麗な笑顔で言って、カップを一つ藍に手渡した。そして、他のカップに注いだコーヒーを飲み、早々に台所を出て行ってしまった。
藍はカップをお盆に乗せ、椿姫の部屋の前まで運んだ。声をかけようとして、ためらった。
ためらってしまったのは、昨夜、皐月に言われた言葉を気にしてしまっているからだ。
“姫の寝起きは相当悪いから”
あの最後の綺麗な笑顔には、面倒事がなくなってよかったという意味が込められているような気がしてならなかった。
しかし、迷っていてはコーヒーが冷めてしまう。
藍は勇気を振り絞って、声をかけた。
「おはようございます。コーヒーをお持ちしました」