こころの展覧会
「入れ」
すぐに返事が返ってきた。
藍は「失礼します」と言って、障子戸を開けた。そこには、すでに起きて窓の外を見ている椿姫の姿があった。気だるそうに窓側にもたれ、右手で扇を軽く弄んでいる。
椿姫のすぐそばに座り、コーヒーを置いた藍はすぐに立ち去ろうと立ち上がった瞬間、
「今日は出かける。支度をしておけ」
椿姫の視線は、窓の外に向けられたまま。何かを真剣に見ている。
「…えっ?僕もですか?」
「そうだ。9時に家を出る。わかったら返事をしろ」
威圧的な声音。
その言動は、高慢。
けれど、その高慢さがいかにも似合っている。そして仕草には、時折、高貴さのある仕草が見受けられた。
「わかりました」
藍はそれだけ言うと、椿姫の部屋を出た。そのまま足早に自分の部屋に戻り、一息ついた。