こころの展覧会
「見せてみろ」
椿姫にそう言われ、藍はスケッチブックを渡そうとしたが、ためらった。
どこからか、父の言葉が聞こえてくるのだ。幻聴は、何度も藍の頭の中に低く、重く響いた。
同じ言葉を言われたくなかった。
「どうしたんだ。早くしろ」
藍はギュッとスケッチブックを握りしめたが、椿姫にスケッチブックを奪うように取られてしまった。椿姫はスケッチブックを開き、無言で絵に視線を落とす。
焦りのような恐怖感が、藍を襲った。逃げ出してしまいたいような気持ちと、同じ言葉を言われてしまいそうで怯える身体。
「……こんな絵をいつも描いているのか?」
手元の絵から目をはずし、椿姫は藍に視線を移した。
「なんの感情もこもっていないというような絵だな……何を思ってこの絵を描いた?なぜこの花を描こうとした?」
「…わかりません」
「そうだろうな。………つまらない絵だ」
言って、椿姫は手にしていた絵を一気に引き裂いた。