こころの展覧会
「あの子はね、いつ消えてしまうかわからないからよ。今年はみんな出払うことが多いから、不安なの」
「どういうことですか?」
「椿姫は過去に何度も自殺をはかってるの。今まではなんとか未遂で済んでるけど、それがこれからも安全である保障はないわ。だから、お願い」
強い眼差し。
事情は言えないと、その目が言っている。
藍はただ「わかりました」とだけ答えた。それを聞いた柊は、また微笑みを浮かべた。静穏という表現が似合う微笑み。静かで、穏やか。そして、少し悲しげな笑み。
夜。
静寂だけが訪れ、家中に張りつめた緊張感のようなものが醸し出されていた。
藍は布団の中で、あの出来事を思い返した。
あの日。
あの時。
激しい雨の中。
橋の上。
自ら死を望んだ時。
椿姫は傘をさしてはいなかった。
一つの理由が藍の頭をよぎった。
あの時、椿姫も死のうとしてたのではないかと。