こころの展覧会
その当たり前の事実を改めて気づかされた藍は、“あること”に気づいてしまった。気づきたくはないことに。

「……生きる為に必要だからです」

「それが理由なら、私に食事は必要ない。わかったら、出て行け」

有無を言わさない、厳しい声音。
さあっ、と突風が吹いた。
椿姫の髪が翻って頬をなぜる。乱れた髪を鬱陶しげになおしながら、また外へと視線を移した。
藍はおとなしく部屋を出て、自分の部屋へおぼつかない足取りで戻った。

突きつけられた。
“あること”を。
気づいていたけれど、気づかないフリをしていたかったこと。

意識はあの橋の上の時と同調する。
死を自ら望んだ時。
本当は痛かった。
苦しかった。
さびしかった。
そして、同時に願ったのは“生きたい”という感情だった。

そして、もう一つ確信したことがあった。あの橋の上で、椿姫も死のうとしていたことを。自分と同じだったという事を。

そして生まれたのは、一つの疑問。

椿姫も心のどこかで願っているのだろうか。“生きたい”と。



< 49 / 203 >

この作品をシェア

pagetop