こころの展覧会
「それより、お前は絵を描けるようになったのか?」

そんな質問をされ、一瞬驚くものの、微笑みをつくり、「まぁまぁです」とだけ答える。

これは、時々椿姫が藍にする質問で、その度に藍は、同じように答えていた。
正直には言えないのだった。でも、そのことさえ、まっすぐに向けられる目は、気づいているのかもしれないと、最近はこの質問をされる度、少々びくついてしまっていた。



夜。
待ちに待った夜がやってきたと藍は、部屋の窓を開けた。夜顔が咲いている場所が、2階のこの部屋からギリギリ見えるのを、昼間のうちに確認済みだった。咲いていたら、庭先に降りようと考えつつ見ようと思った時、下から声が微かに聞こえてきた。
声の主は、椿姫と皐月だということに気づいた。どうやら縁側で話をしているらしい。

その時だった。
椿姫が庭先に降りた。
後ろ姿が見えた。
背筋が伸びた背中。
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