こころの展覧会
癖のない艶髪が、風に揺れていた。
そして気づいた。
お面をしている時は、後ろで縛っている紐が見えるはずなのに、今は見えない。
枝垂れ桜の木を撫でた椿姫が、振り返った瞬間、顔が見えた。

月光にぼんやりと縁取られたその表情は、とても艶やかだ。

涼しげな目元、高い鼻筋、紅の塗られた赤い唇、月光が透き通るほどに白い肌。

優しそうで、冷たい印象を与える顔。

肩口から軽く滑り落ちる髪さえも、妙にあだっぽい。

藍は呆然と目を見張り、その姿を凝視する。

椿姫は数分足らずで、家の中へと戻っていった。


椿姫が去った後も、椿姫が立っていた場所を見続けていた。

しばらくして我に返った藍は、夜顔の花を間近で見るために庭先へ降りた。縁側の方を見ると、戸は閉まっていて、もう誰もいなかった。


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