こころの展覧会

声がした方を見ると、着物姿の女性がいた。この雨の中なのに、傘をさしてはおらず、白い仮面をしている。

仮面は顔の上半分を覆っているもので、顔全体を見ることはできない。しかし、高い鼻に赤い唇、新雪のような白い肌が、端正なつくりの顔を思わせる。

長い黒髪は雨に濡れ、滴っている。着物、帯、下駄、すべてが黒く、帯紐だけが赤い。
その女性がいるところだけ、空気が違うように感じる。
現実から離れた、幻のようにも思えるほどだった。

藍は何も答えることができないまま、ただその女性を見ていた。


「……もう一度聞くが、お前は死ぬのか?」


女性にしては低めの声なのに、ひどい雨の中でも、やけに響く声だ。


「今落ちたら、確実に死ねるぞ」


聞き取れるのに、思考力が働かない。
何も答えることができない。
はっきりしない視界。
女性の表情は、わからない。
 

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