こころの展覧会
「えっと…女性の背中と言いますか…立ち姿です」
どんどん小声になっていく藍は、椿姫の目を見ないために、下を向いた。そのせいか、ぼそぼそと落ちるような声は、聞き取りにくいものとなっていく。
「なるほどな。この花には、憂いと強さを感じられるな。でも、まだまだだ」
言って、椿姫は藍にスケッチブックを返した。藍は俯いたまま、スケッチブックを受け取った。
「とりあえず、見れるような絵になったじゃないか」
藍のどこか怯えたような様子を見て、椿姫は藍の頭を軽く撫でてやった。
「なんでもいいんだ。好きなものとか、自分がこれって思うものを描けばいい。花でも鳥でも、風景でも。綺麗なものでなくてもいいんだ」
それは、雪のように冷たい声音。
ゆっくりと伝わって、心の中でじわりじわりと溶けていく。
藍は、黙ってそれを聞いていた。