こころの展覧会
「あの…ですね、椿姫さんのことなんですけど、最近よくうなされてるんですよ。それで、うわごとのように言うんです。“憎んでる”、“殺してやる”って…。椿姫さんは、誰を憎んでいるんですか?なんであんなに…苦しんでいるんですか?」

「そうねぇ…、それは教えてあげられないわ。ごめんなさいね」

皐月は、先ほどよりも声のトーンを落としていった。

「皐月さんは知っているんですよね?」

「ええ。知っているわ。姫のことなら何でもね」

「そうですか…」

「知りたくても、本人に直接聞くなんてバカなことはしないでね。そうね…言えることは、“憎しみ”に囚われた人っていうのは、それだけしか考えられなくなるってこと。それ以外何も残らなくなってしまうのよ。弱いからこそ生み出してしまう感情。それは、とても、とてもね、強い感情なのよ。藍くんは誰かを恨んだことはない?」

皐月の口許は笑っているようにつり上げられているのに、細められた目は全然笑ってはいなかった。
< 71 / 203 >

この作品をシェア

pagetop