こころの展覧会
そんな表情を、藍は怖いと思った。

「……ないです」

「憎くて、恨めしくて、復讐心に駆り立てられる。“復讐”に心を囚われてしまうとね、“何をしてもいい”という感覚に陥ってしまうのよ」

「……………」

藍は皐月から視線をはずさなかった。
背筋が急速に冷えていく。
まるで、迫力満点の怪談話を聞いているかのように。

「あたしね、明日から2日間お仕事お休みだから、姫のお世話はあたしがやるわ」

言って、皐月は飲み干したコップをお盆の上に置いた。
そして、立ち去り際、皐月は藍に耳のすぐ傍でこう言った。

「優しい、優しい藍くんに、一つ忠告してあげるわ。これからもここにいたいなら、椿姫の感情から一定距離を置くこと。決して近づきすぎないこと。闇に引きずられて、君が壊れてしまうことになるんだからね」

皐月がその場を去った後も、藍はしばらくその場から動けなかった。

< 72 / 203 >

この作品をシェア

pagetop