こころの展覧会
「先生はとても素晴らしい人だったわ。包容力があり、温かで、おおらかで、愛情表現が豊かな人」
言って、皐月も同じようにして墓標を見る。

「生き方に一貫性があり、主義主張のぶれない人だ」

と、松詠が言った。

「そうだな。優しいだけじゃなく、格好よかった」

言って、線香に火をつけた木蓮は、二本ずつそれをみんなに配った。

「突然旅に出ちゃって、いつ帰って来るのかわからない放浪癖があったけどね」

言って、柊は淡く笑った。

「大きな恩がある。だから、お盆に迎えに行くときは、必ずみんなで行くんだ」

言って、椿姫は線香をあげた。両手を合わせて、目を閉じる。

その時、藍はわかった気がした。
何故椿姫が今日、お面を外しているのか。その理由が。
それは、敬意の表れではないのかと。

その後、墓標の前で迎え火を焚き、家の前でも焚くと、玄関前の提灯に灯をともした。まだ陽が高いというのに、宴会が始まるのだった。



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