こころの展覧会
藍は押し黙ってしまった。
その沈黙からすり抜けるように、椿姫はぬかるんだ道を足早に歩きだした。藍が返答をしないままにして。
藍は椿姫の背に黙ったまま続いた。



その次の日の朝、藍がコーヒーを持っていくと、いつもと変わらない態度の、お面をつけた椿姫がそこにいた。そして、いつものように、藍は命じられるままに動くのだった。

―――何もできない自分がひどく子供なのだと思う。




数日後。
椿姫が描いた絵は、枝に付いた赤い六角状の鬼灯(ホオズキ)の袋。

赤く灯る光には、不気味なほどに静かで敵意をたっぷりと含んだ鋭さがあった。

闇を焦がして輝く、炎のような光。

静かな声音の恨み言が聞こえてきそうな、憎悪で激しく煮えきった目がこちらを睨み据えている。



藍はこの絵を直視できなかった。

思い出すのは、あの雨の中で見た憎しみに歪んだ表情。
双眸には、鋭い光がみなぎっていた。

その憎悪は、かつての愛情と比例しているように思えた。



 

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