こころの展覧会
椿姫が退院してから、数日が経った。藍は前と変わらない態度を心がけていた。変わったことと言えば、椿姫と過ごす時間を増やしたということだ。
「おはようございます」
朝のコーヒーを持って、藍は椿姫の部屋に入った。
「椿姫さん、今日もいい天気ですよ。それとですね、今日の朝ご飯には、カボチャの煮物がありますよ」
藍は笑った。
もともとしゃべるのが苦手だった藍だが、よく椿姫に話しかけるようにしていた。椿姫はその他愛もない話を、ただ聞くのだった。
朝ご飯の片づけが終わった後、庭に降りている椿姫を見つけた藍は、その背中に話しかけた。
「どうかしたんですか?」
「桔梗の花が咲いているなと思ってな」
椿姫の視線の先には、一輪の桔梗の青紫の花が咲いていた。まだ周りの桔梗は蕾で、ふっくらと膨らんだ姿は、愛らしさと気品の両方を兼ね備えている。