こころの展覧会
「今、その母親はどうしているんだ?」

「母は一人っ子の上に、両親を早くに亡くしていた為、僕たち二人を引き取ってくれる人はいませんでした。そんな時、僕の父だと名乗る人が、僕たち二人を引き取ってくれました。母は、僕も父だと名乗る人も拒絶し、精神バランスがとれなくなった為、今も入院しています」

「そうか……つらかったな。母に忘れられるのは悲しいだろう……」

「はい……」

椿姫は、藍を自分の腕で包み込んだ。そして、優しく背を撫でた。

藍は忘れたことはなかった。
あの拒絶する目を。
思い出してはくれない母。
怖かった。
悲しかった。
つらかった。
さびしかった。

父に引き取られた後も、新しい家には馴染めなかった。新しい学校でさえ、自分が異質に感じてならなかった。

だから、父に少しでも自分の力を認めてもらいたかった。

でも、父は認めてはくれなかった。
思い出すのは、大きな背中と、威厳に満ちた声だけ。

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