満たされしモノ
……


しばらくして、なんとか僕は目潰しのダメージから立ち直っていた。


痛みもさることながら、校門で転げ回るという痴態を晒してしまったことも相当な痛手だ。


誰か側を通る度に、僕を指差して笑い者にする。


閂なんか腹を抱えて爆笑しているし……


「本当に、何しに来たんだよ……」


僕は溜め息を吐くしかなかった。


しかし……


「本題だ、刀矢」


次の瞬間には空気が研ぎ澄まされ、緊張で唾を飲むことになった。


閂が不意に真剣な口調になったのだ。


「マッドドックがパンタゴンに現れたそうだな」


僕は“マッドドック”と聞いてもピンとこなかった。直訳で狂犬?


“パンタゴン”なら分かる。僕が毎日のように昼食を買いに行く移動型パン販売店のことだ。


「なん……だと!」


僕の代わりに穴夫が驚きに声を上げる。


「穴夫は何か知っているのか?」


僕が尋ねると、穴夫はさも呆れた様子の視線を送ってきた。


普段は滅多にない反応をされ、僕は少し怯んだ。


「私が説明しよう。マッドドック……、これは奴に与えられた二つ名だ」


……奴って誰? と問いたかったが、重い空気がそれを許さなかった。


 
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