満たされしモノ
……と、大体そんな話だったと記憶している。


かれこれ一ヵ月前のことだ。


「でも、あれだけの事をしておいて、よく停学だけで済んだよね」


退学……もしくは警察沙汰になってもおかしくないはず。


閂が溜め息とともに首を横に振るった。


「証拠がなかった」


「証拠……?」


僕の頭に疑問符が浮かぶ。


「そうだ。

切り付けた事実はある……が、肝心のナイフがどこにもなかった。罰しようがないのさ」


停学にしただけでも大した決断だ、と難しい顔で腕を組む閂。


「そこがとても不可解なのだ……」


穴夫が言葉を継ぐ。


「バスケ部だったか……、とにかく俺はそいつの腕に付けられた傷をこの眼で見た。間違なく鋭利な刃物でやられた切り傷だった……


だが、ナイフは持っていなかった……」


穴夫は事件の時にその場に居合わせた一人。僕達の誰よりも疑問を感じているはずだ。


「戌亥先輩はなんて言ってたの? やったことを認めた?」


僕の質問には、実際に聴取に立ち会った閂が答えてくれた。


「いや……、黙秘された。未だ真相は深い闇の中さ」


胸のもやもやが晴れる答えではなかった……

 
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