満たされしモノ
不知火や穴夫の食事とは天と地の差がある僕の昼食……


二人は勝ち組、僕は負け組。


大袈裟な言い方ではなく、実際に二人は昼食を勝ち取ってきたのだ。


そして、僕は舌がとろけそうな美味なパン、通称『ウマパン』を手に入れられなかった。


昼食争奪戦争の敗者である僕にマズパンが与えられるのは当然である。


昼食争奪戦争……


僕達の通う黎明(れいめい)学園では、一つのモットーが存在する。


それが『自分の食べるものは己が力で手に入れろ』というものだ。


今や世界中に蔓延するユトリ教育に、真正面から対抗せんがための苦肉の策。


人に欠かせない食事を困難なものとし、ぬるい授業では得られない生きることの厳しさを学ばせる。


闘争、すなわち弱肉強食。


俺達は昼食を得るために戦わされている……、いや、戦っている!!


旨い飯にありつきたければ力を示せ! 知恵を絞れ! 強くあれ!


そう。


この学園で食糧を確保することは、それ自体が戦争なのだ。


求める人数より求められる物が少ない時、人は争う。


遺伝子に刻み込まれた人間としての欲求を引き出す仕掛けを、黎明学園は施している。


早い話、僕達は旨い飯を食べたいだけだった。
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