遠目の子鬼
又兵衛はいつも通りの表情で僕に答える。


「い、いや、いいんだ、何でも無いよ」


僕は慌てて膝の上に置いたユーフォニュームを構えると何かを誤魔化す様に何度も息を吹き込んだ。


「なんだ、おかしなやつだな」


そう、時間は止められないんだ。


僕達に残された時間は、けっして長くは無い。


だから、もっと大切にしないといけないんだ。


「さ、頑張って練習しないと」


僕はちょっとわざとらしく元気に又兵衛に話し譜面台の楽譜をめくりながらユーフォニュームに息を吹き込んだ。

         ★

その日の夜、ベッドの中で、僕はぼんやりと考えていた。


そう言えば、後輩が居ないんだ。


ユーフォニューム担当は、今、僕一人。僕が卒業してしまったら後任が居ない。
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