遠目の子鬼
僕は椅子をひとつ取り出して、それに座ると譜面台を正面において、さっき全体練習で言われた処を、ゆっくりおさらいし始めた。


又兵衛はそれを見て腕を組んだまま、ゆっくりと瞳を閉じて、僕の演奏を聴き始めた。


その時だった。


「――う、うわ」


真っ青な空に真っ白な雲が幾つかゆっくりと流れて行く。


爽やかな風が頬を撫でる様に吹いて行く。


僕は確かに教室に居た筈だったのに、これは、一体。


そう思うと、僕は演奏するのも忘れて周りの様子をきょろきょろと眺めた。
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