遠目の子鬼
楽屋は不思議な熱気に包まれている。


この熱気、毎度の事だ。本番前の楽屋は、妙な緊張感と熱気で異様な空間と化している。そして、それはけっして不快な物ではでは無い。


むしろ、心地よい位だ。何時も無口な奴が饒舌になったりムードメーカー見たく明るい奴の視線が定まらなかったり…この待ち時間では、個人の本当の性格が表れる様な気がする。


この状況を冷静に見られる自分は、本当は肝が据わっているのだろうか…そんな筈は無い。又兵衛との練習の時、散々弱音をはいてるんだ。

それが自分の本当なのだ。

「保孝」

ぼんやりしていた時に突然話しかけられて、僕はどきりとして、その声の方向に向かって振りかえった。
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