遠目の子鬼
上手く出来なかったら、どうしよう…


気が済むまでおさらいも練習もした。


だから大丈夫だって自分に言い聞かせてみたのだが、心臓のどきどきは、時が進むにつれて激しくなっていった。


おちつけ、おちつけ…


心の中で呪文の様に、そう繰り返してみたが、一向に収まる気配は無い。


一曲目終了。


拍手に答えて先生が客席に向かって一礼する。


そして再び僕達の方に向き直ると、再び指揮棒を構える。


それに合わせて、僕も楽器を構えた。


震えてるのが分かる…


なんだか嫌な汗が背中を伝わり落ちるのが分かる…


全てがネガティブな方向に向かっている様に感じた。


先生の指揮棒が振り下ろされる。


…唇が乾いて音が出ない。


一瞬だけだが、僕は出遅れた。同時に心臓が、ばくんと大きく脈打った。


まずい、何とか失敗を取り戻さなければ…
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