遠目の子鬼
曲の出だしは殆ど全員が音を出すので、ユーフォニュームの音が一瞬欠けても目だたない。それに隠れて、僕は何とか音を出す事が出来た。


先生はちょっと気になったらしくて、指揮棒を振りながら、僕の方をちらっと見た。


…どきどきどき


頭に響く心臓の音…曲が進むにつれて大きくなってくるのが分かる。


それに合わせて音が震える。


駄目だ、落着け、落着け…


その願いはむなしく、心臓のどきどきは収まる事は無い。


どうしよう…


このままでは音が出せなくなってしまう…極限の緊張状態で、目眩すら感じる。
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