遠目の子鬼
「大切にするよ」


又兵衛がとびっきりの微笑みでそう言った。


「うん、そうだね、大切にしよう」


僕も、ちょっとしゃくりあげながららだけど何とか又兵衛に答える事が出来た。


そして、微笑みながら無言で見つめ合う。窓から差し込む低い太陽の輝きは、教室に有る全てのものに乱反射して、とても神秘的だった。


「…じゃぁ…行くよ」


僕は又兵衛にそう言うと彼に、ゆっくりと背を向けた。


そして、教室の扉が目に入った瞬間、再び、涙が溢れそうになった。

あの扉を出たら、全てが終わる。
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