遠目の子鬼
その海は、凪いで居る事も有れば時化て居ることも有るだろう。


でも、どんなに時化ていたとしても、それを恐れる必要は無い。


僕は目標を一つやり遂げたって言う実績が有るんだ。


だから、これから何が有っても恐れる事はしない。常に前進有るのみだ。


窓の外に見える銀杏並木が、ざわりと揺れた。


僕には、その音が、頑張れと言う声援に聞こえた。


そして、この瞬間を一生忘れない。僕の原点はここに有る。見失ってはいけないのだ。僕は教室の扉を背に、大きく深呼吸して、皆が待つ、音楽室に向かってゆっくりと歩き始めた。


空の青さに誓う…僕は一生懸命、生きます。

         ★

それから50年の月日が流れた。


振り返ってみれば、あっという間の時間だった。たくさんの出来事が有った。けっして楽しいと思えない事もたくさん有った。苦汁を舐めたり、挫折しそうになった事も数知れない。

僕は、高校・大学と進学して、音楽教師の道を志し何とかその目標をかなえ、今日まで教壇に立ち続けた。
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