遠目の子鬼
「凄い汗だな。そんなに集中して練習してたのか?」


僕は自分の額を手で拭った。


英二の言う通り、汗びっしょり。自分でも驚く位の汗の量だった。


「え――う、うん、ちょっと気合入っちゃったみたい」


僕は曖昧な笑みを浮かべるとユーフォニュームの手入れをしようと椅子から立ち上がった。


なんだか足がふらついた。


心地良い疲労感だった。


こんな疲労感なら、何時でも歓迎だ。


僕はユーフォニュームをケースにしまうと、椅子を元に戻し、譜面台を持って、英二の後に続いた。


教室の照明を消しながら中をゆっくり見渡すと、又兵衛が、にこやかにうなづきながら、僕を見詰めて居た。


僕も又兵衛に笑顔を返すと、静かに教室の扉を閉めた。

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