遠目の子鬼
「あ、ご、ごめんなさい」


よそ見をしながら歩いていたので、僕は誰かとぶつかってしまった。


「おはよう、中野君」


女の子の声だ。


僕は反射的に声の主に向かって視線を移す。


そして、ぶつかった」人物が『なっちゃん』だと分かり、大いに狼狽してしまった。


「あ、ああ、佐藤さん、おはよう」


僕もそう挨拶すると、なっちゃんはにこやかに微笑み、さらさらのセミロングヘアをひるがえして、僕の前から立ち去って行った。


僕は、ぼうっと、その後ろ姿を見送った。


「おい、保孝!」


英二の声で、僕は我に返った。


「え、ああ、何、英二?」


「何、ぼーっとしてるんだよ、俺達も行くぞ」


英二はそう言うと、僕の前を足早に歩き始めた。
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