遠目の子鬼
僕の周りを、リスや兎や鹿などの小動物たちが取り囲んで居る。


「又兵衛――これ?」


「ん?ああ、観客が居た方が、練習にも身が入るだろ?」


「え? う、うん」


僕の曖昧な返事に、又兵衛はにっこり笑いながら答えた。


「そら、演奏してみろよ」


又兵衛の気持ちが何となく分かった気がし居た。


僕も又兵衛を見詰めて、にっこりとほほ笑む。


「うん、分かった」


僕は再び楽器に息を吹き込む。


すると、動物たちの耳がぴくりと動いた。


又兵衛の言う通りだ。みんな聞いて居るんだ、僕の演奏を。
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