遠目の子鬼
廻る思い

1) 父の夢

「なんだぁ、保孝、何か悩み事か?」


「え――そ、そんなんじゃぁ無いんだけど」


「なら、言ってみなさい。これでも保孝に比べれば、遥かに長く生きてるんだ。きっと、役に立つと思うよ」


お父さんは、優しく微笑みながら僕の頭を、くしゃくしゃと撫でた。


「――あのね、お父さん」


暫くの沈黙。


そして僕は、意を決して、お父さんに訪ねてみた。


「お父さん、中学の頃、好きな女の子――居た?」


僕の質問にお父さんは表情を崩す事は無かった。


いや、それどころか、何か懐かしい物を見る様な瞳で僕に答えた。
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