遠目の子鬼
「――ねぇ、又兵衛の世界には、恋愛感情なんて無いの?」


「ん?恋愛?だって?もちろん有るさ。結婚だってするし、家族だって有る。俺だってこれでも三人の子持ちだ」


僕には今日の又兵衛は凄く不機嫌な様子に見えた。なんでそんなに不機嫌なのか、僕には理解出来なかった。


「ねぇ、又兵衛…何か怒ってる?」


僕は又兵衛の顔を、おそるおそる覗き込みながら、出来るだけ彼を刺激しない様にそう聞いてみた。


「え?怒ってるかって?はん、全然怒ってなんか居ないさ。何警戒してるんだよ保孝、大丈夫だよ」


又兵衛は目を閉じて、ちょっと俯き肩を竦ませて僕にそう答えた。何時もの仕草だったけど僕にはちょっと棘がある様に感じられた。
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