遠目の子鬼
「おいしいよ、又兵衛」


僕のおいしいよの声に又兵衛は満面の笑みを浮かべた。


「そうだろう、俺が飼ってる羊の乳で作ったお茶だ。遠慮するな、まだ沢山あるぞ」


又兵衛は快心の笑み。


僕も又兵衛の気遣いが嬉しくて、にっこりと微笑む。


僕は又兵衛が暮らすこの世界が気に入ってしまった。


人間が暮らして良い世界なのか分からないが、ここで暮らしてみたいと思った。


「ねぇ、又兵衛…」


「ん、なんだ保孝?」


「この世界は人間が暮らせる世界なの?」


「――人間が…か?」


又兵衛の表情が曇った。明らかに何か困った表情だ。


「――あ、ごめん、変な事聞いちゃった?」
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