白黒先生-二重人格彼氏-
「……分かってるから」
「へ?」
数秒の間を破って、瑛が言った。
いつもからは想像のつかない小さくて、弱々しい声で。
「答えなんか分かってるから…いんだよ。見てるだけで」
「て、瑛…?」
瑛の顔は、今までに見たことがない、悲しそうな顔だった。
この人、ほんとに瑛なの?
…って聞きたくなるくらい。
「な、なんてな! おい、本気にしてんじゃねーよバーカ」
「なっ…!?」
瑛がニカッと笑うと、さっきの変な空気はバカみたいに消え去った。
何だったの、さっきの瑛は。
その質問は瑛にはしちゃいけないような気がして、あたしは少し俯いた。
「あっ…俺用事あるの忘れてた! だから行くな! んじゃな、沙耶、大和」
「えっちょっ…瑛…っ」
リレーの選手に選ばれるだけのことはある運動神経の持ち主の瑛は、すぐに視界から走って消えていってしまった。