like or love

誰もいない教室に連れ込まれる。

さっきから、嫌に心臓がばくばくと音をあげている。


「ねぇ、どうしてさっきの質問答えられなかったの」

「え…」

「どうして」


さっきの質問を聞かれていた事に驚くよりも、射るような鋭い声に怯える方が先だった。

―怖い。

何とも言えない不安が身を包む。


「そ、れは…」

「好きじゃないから?」

「え?」


一体何を言っているのだろうか、この人は。

私は好きな人としか付き合わないし、それ以上のこともしない。

それに、私が彼を好きじゃないなら、あんなに彼との時間を惜しんだりしない。

そう思うのに、声が喉に張り付いて剥がれない。


「なにそれ、最悪」


突如降り注がれる、冷たい責め立てる声。

杏奈さんの表情は冷え切っていて、双眸は怒りに満ち溢れていた。


じりっと、近付かれる。


「アンタ、そんな軽い気持ちで付き合うなら別れてよ」

「ち、ちが…っ!」

「今更否定したって遅いわよ。…別れて」


確かに、今更だ。

だけどこの気持ちが軽いものじゃないのは事実だ。


「い、いや――」

「ふざけないでよっ!私の方が、アンタなんかよりも由貴を思っているっ!!」


大きな声に、肩が震えた。


「ふざけてなんか、…」

「充分ふざけてるじゃない。好きじゃないなら別れてよ」


―ばんっ!

壁に手を叩き付ける杏奈さん。

それは、紛れもなく脅しだった。
< 11 / 76 >

この作品をシェア

pagetop