LAST-LIFE
あれ以来、香は頻繁に流音寺を訪れるようになった。

「堪蔵さん・・・、お嫁は取らないんですか?」
「お嫁ですか・・・。」

香は真剣な眼差しで堪蔵の次の言葉を待つ。

「私は僧ですから。」
「え?」
「修行中の身ですから。それに、お嫁を貰えばこの寺は狭くなる。子供が産まれれば尚更。妻や子に窮屈な思いさせられませんから。」
「・・・そうですよね。」

香は寂しそうに微笑んだ。

「どうしたんですか?いきなりこんなこと聞いて。」
「お嫁に行くことになりました。」
「え・・・。」
「相手は醤油屋の若旦那で私にとってはこの上なくいい条件なんです。」
「そうですか・・・。」

何故か心に痛みが走ったのを堪蔵は感じた。

「今日はこれで。」

香は夕日の方向に歩き始めた。
なんだか切なかった。
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