LAST-LIFE
勘蔵は手の平を見つめた。

いつもと感覚が違う気がした。

『私は本当に勘蔵なのか・・・?』

「勘蔵さん・・・?」

井戸の前で何かを考えている勘蔵に香は話し掛ける。

勘蔵は振り向き、うっすらと笑みを浮かべ、何でもないですと答えた。

香はそうですかと返し、いつもの笑顔を見せた。

勘蔵は思わず香を抱き締めた。

「か、勘蔵さん!?」
「少し、このままで。」

香は突然のことに驚いたが、すぐに落ち着いて勘蔵の腕の中にいた。

『お香さんを抱き締めることを私に唯一、許されるのは私自身。つまり、私は私以外の人間ではない。・・・そうだ、私は紛れもなく勘蔵だ。』

「お香さん。」
「なんですか?」
「私は・・・悩んでいます。」
「どうしてですか?」
「自分が自分でないような・・・違和感がして。」

勘蔵がそう言うと、香は勘蔵を体から引き離し、勘蔵の顔を触れた。

「勘蔵さん・・・。」

香は勘蔵の頭を引き寄せ、額と額を合わせる。

「あなたはあなた。他の人ではありません。例え、どんな秘密があっても。」

勘蔵は思わず香を抱き締め直した。
香が自分を自分だと信じてくれているのがうれしかった。
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