*―い じ め―*


「失礼しまぁ―す」


「保健の先生、いますか?」


「はぁいはいはい!
どうしたの?」


「先生、愛菜さんが……」


「あっらぁ…
制服も髪の毛も水浸しじゃない!
早く髪の毛乾かして!制服も着替えなさい!」


「はい……」


「藍さんと里沙さん。
ご苦労様!
もう、教室に戻りなさい。」


「「はい」」


そうして藍と里沙は教室に戻って行った。


ガラガラガラ


愛菜と保健室の先生は保健室の中に入った。


「愛菜さん…?」


「はい……」


「最近様子が変ですね…
何かあったんですか?」


「いえ……何も。」


「本当に……
ないんですね?」


「……。」


ある……。

本当はいっぱいあるんだ。

でも私は言わない。


負けた気がして嫌だから。


「本当に、何もありません。」


私は真面目な顔で言う。


「そうですか…
なら、良かったです。」


そうして保健室の先生は職員室へ向かった。


「わざわざ制服、借りに行ってくれるんだ…。」


体操服でもいいのに……。


「はい、愛菜さん!」


「ありがとうございます……。」


私は制服を受け取った。


「愛菜さんっていつも長袖着てるよね?」


そう言いながら、保健の制服が私の服の裾を捲り上げようとした。


「やっやめてッッ!!!」


「えっ……」


先生はパッと手を離した。


「あ……そうよね…。
ごめんなさい。
じゃあ先生は職員室、戻るね。」


そう言って保健の先生は保健室を出た。

私は自分で服の裾を捲り上げる。

そこには無残なリストカットの傷。


私は藤本 愛菜。
小学6年生。

見ての通り…。
いじめられてる。

あと1ヶ月で卒業。

あと1ヶ月もすれば、中学校と言う、新しい世界に行ける……。

もう……。


耐えなくていいんだ。

私は自分で傷つけたリストカットの痕を眺めながら泣いた。

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