イジワルだけど
章は作業を再び始めた。

私に好きな人ができたら何が面白いんだか。意味が分からない。好きな人なんてそう簡単にできるものじゃない。今まで、私は全く恋というものをしたことが無いからあんまりよく分かんないけど、人を好きになる瞬間って神様が運命的にくれるものだと思う。だから、そう簡単に人を好きになるってあるとは無いと思うんだよね。

て言うか、白木はどうなんだろう。好きな人いるのか? なんて私には聞くけどあんたはどうなのさ。ちょっと、興味があるかも。別に、私には関係の無い事だけど。

「じゃあさ、あんたはどうなのさ。好きな人いるの?」

心音が速くなる。私ったら何、緊張しているんだろう。

章は目線を未完成な新聞記事から彩未へと移す。

ドキドキ……。心臓の音がうるさい。もし、いたらからかってやろうか。日頃の恨みを返してやる! 彩未はニコニコしながら章の焦げ茶色の瞳をじっと見てそんな事を考えていた。

「んー、いないな。今の所」

「へえ。そう」

期待はずれな答えに彩未はつまらなそうに言う。

「あ、もしかして、いたらいじめてやろうとか思った?」

「そんな事ないから!」

彩未は声が高くなる。

「図星だね。俺の言った事がビンゴだったら、君声が高くなるって事くらい知ってるよ」

「うるせえー! そんなんじゃねえもん!!」

つい、昔の癖で彩未は男言葉で言ってしまう。

「女が品のない言葉を使っちゃいけないって、彩未ちゃん知ってる?」

章は皮肉を込めて、普段は君、石田呼びなのに「彩未ちゃん」と呼んだ。彩未はそれがたまらなく恥ずかしく思い顔を真っ赤にさせる。

「あんたなんか大っ嫌い!」
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